板東教授の
 映像生体影響講座

◇ストレス状態と脳活動 その3
●人間の視覚系を例に実例を挙げます。私たちの網膜の細胞密度は中心で非常に高くなっており、ここを中心窩と呼びます。私たちは普通、この中心窩を使って物を見ます。中心窩には、非常に多くの細胞があるので、細かい像を見ることができますし、色を感じることができる細胞は中心窩だけにあります。
 網膜には1億の細胞がありますが、視神経は100万本しかありませんので、網膜で情報圧縮することが必要で、圧縮された情報は大脳で解凍されます。このときに、中心窩からの情報は圧縮率が低く、さらに解凍のときに、そのシェアが大きくなる仕組みを持っています。このために網膜の中心で見た部分が、大脳にある外界のマップの上で比率が拡大されます。もし、外界を碁盤の目のように区切ったとすると、この升目は視覚領では大きく歪んで写ります。このおかげで、われわれは中心視の領域で高い分解能を得ることができます。
 目は頭についていますから、網膜に映る外界の像は頭の動きにつれて動きます。この像は地球中心の座標軸で表すよりは、網膜中心の座標軸で表すことが便利です。
 運動する場合には、外界と同じ座標系で処理をすることが便利です。視覚系から運動系へ情報を伝える途中で、座標変換が行われ、その場は頭頂葉から前頭葉への投射のなかにあると考えられています。
 座標変換の過程で、間違いが起こる可能性がありますが、日常環境では学習を通じた微調整(校正calibration)が常に行われ、環境と脳内座標系の整合性が保たれていると考えられます。
 このように、私たちは外界の像をそのまま見ている訳ではなく、脳内での種々の情報処理を受けた結果を「見て」います。実際に心理学的研究でも、普段、視野の中にあっても、その人が関心を持たないものは見ていないことが知られています。